音楽療法
音楽療法とは? ー その効用と国内外の事例紹介
*音楽療法ってなんだろう?と疑問に思った方に・・・
1. 音楽療法とは
音楽療法(Music Therapy)は、音楽の持つ心理的・生理的効果を活用し、心身の健康を改善する治療法です。楽器を演奏したり、音楽を聴いたり、歌を歌ったりすることで、リラックスやストレス軽減、感情表現の促進、認知機能の向上などの効果が期待されます。
音楽療法には、**「能動的音楽療法(Active Music Therapy)」と「受動的音楽療法(Receptive Music Therapy)」**の2つのタイプがあります。
• 能動的音楽療法:患者自身が楽器を演奏したり、歌ったりすることで、自己表現を促進し、身体機能や認知機能の向上を目指します。
• 受動的音楽療法:音楽を聴くことによってリラックスし、心身の安定を図る方法です。寝たきりの方や重度の障害がある方にも適用されます。
2. 音楽療法の効用
音楽療法は、精神的・身体的・社会的な側面において多くのメリットをもたらします。
(1) 精神的な効用
1. ストレス軽減・リラックス
• 音楽を聴くことで、自律神経のバランスが整い、ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌が抑制されます。
• 穏やかな音楽を聴くことで、リラックス状態を生み出し、不安感を和らげる効果があります。
2. うつ症状の軽減
• うつ病の患者にとって、音楽療法は気分の向上を促す手段として有効です。
• 自分の気持ちを歌詞やメロディーにのせて表現することで、感情の発散や共感を得られます。
3. 認知症の進行抑制
• 認知症患者が昔馴染みの音楽を聴くことで、記憶が活性化されることが研究で証明されています。
• 音楽に合わせて手を叩いたり、歌ったりすることで、脳の刺激になり、認知機能の低下を防ぐ効果があります。
(2) 身体的な効用
1. 痛みの緩和
• 痛みを感じる際に音楽を聴くと、脳の「報酬系」が活性化し、痛みの感覚が軽減されることが分かっています。
• 例えば、がん患者の疼痛管理に音楽療法が取り入れられることがあります。
2. 呼吸や血圧の安定
• ゆったりとしたリズムの音楽を聴くことで、呼吸が整い、血圧が安定することが研究で示されています。
• 特に、胎児や新生児のケアにも音楽が活用され、母親の心拍とシンクロすることで赤ちゃんの落ち着きが増す効果があります。
(3) 社会的な効用
1. コミュニケーション能力の向上
• 発達障害や自閉症の子どもにとって、音楽を介したやり取りは社会性を育む手段となります。
• 言葉の代わりに音楽を通して気持ちを表現できるため、心理的な負担を軽減しながらコミュニケーション能力を高めることができます。
2. 孤独感の軽減
• 高齢者施設やホスピスで音楽を用いたグループセッションを行うことで、患者同士や介護者との交流が生まれ、孤独感を和らげることができます。
3. 音楽療法の国内外の事例
(1) 日本における音楽療法の事例
① 認知症ケアにおける活用
日本の介護施設では、認知症高齢者を対象に音楽療法を実施するケースが増えています。懐かしい昭和歌謡や童謡を流しながら手拍子をしたり、一緒に歌ったりすることで、認知機能の低下を防ぐ試みが行われています。
② 小児病棟での音楽療法
小児病院では、長期入院している子どもたちが音楽に触れる機会を提供することで、ストレスの軽減や治療への前向きな姿勢を育てる試みが行われています。楽器演奏や音楽鑑賞を通じて、子どもたちが病院生活を少しでも楽しく過ごせるよう支援されています。
(2) 海外における音楽療法の事例
① アメリカ:戦争帰還兵のPTSD治療
アメリカでは、戦争から帰還した兵士のPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療に音楽療法が取り入れられています。ギター演奏や作詞作曲を通じて、戦場でのトラウマを表現し、心の整理をするプログラムが提供されています。
② イギリス:がん患者の緩和ケア
イギリスのホスピスでは、がん患者が音楽を聴いたり、セラピストと一緒に楽器を奏でることで、痛みの緩和や不安の軽減を図る音楽療法が普及しています。クラシック音楽やヒーリングミュージックを中心に、患者の好みに合わせた選曲がなされます。
③ フランス:自閉症児の治療
フランスでは、自閉症の子どもたちに対する治療の一環として音楽療法が活用されています。言葉でのコミュニケーションが難しい子どもたちが、音楽を通じて表現を促されることで、自己肯定感の向上や対人関係の改善が見られています。
④ ノルウェー:刑務所での更生プログラム
ノルウェーの一部の刑務所では、受刑者の更生プログラムとして音楽療法が実施されています。ギターやドラムの演奏を学ぶことで、感情のコントロールや自己表現を促し、社会復帰をスムーズにする狙いがあります。
4. まとめ
音楽療法は、心のケア、痛みの緩和、社会的なつながりの形成に大きな効果をもたらします。日本国内では高齢者介護や小児病棟での活用が進んでおり、海外ではPTSDやがん患者の緩和ケア、さらには更生プログラムにも取り入れられています。
音楽の持つ力を生かして、心身ともに穏やかな時間を過ごすための一助とすることが、音楽療法の大きな目的です。今後もさらに多くの場面で音楽療法が活用され、より多くの人々がその恩恵を受けられることが期待されています。